
2001/02/11
| 大洪水以前の世界 |
〜ICAの石と超古代文明〜
今からおよそ4500年前、四大文明と呼ばれる世界古代文明が一挙に開花した。むろん、四大文明とは歴史の教科書で学ぶところの「エジプト文明」「メソポタミア文明」「インダス文明」「中国文明」のことである。もっとも、世界最古の文明である“シュメール文明”は、すでに5000年以上前に王を戴く高度な都市国家を築き上げ、文字を発明し、農耕を営んでいたとされる。インダス文明はさらに謎に満ちた文明で、技術の漸進的な進歩をまったく垣間見せない完成された都市“モヘンジョダロ”を有し、驚いたことに下水施設まで最初から完備していた。
モヘンジョダロを建てた民族が何処から来たのか、彼らはそれほど高度な文明をどこで発達させたのか、全てが判然としない。分かっていることは高度な技術と文字を有した文明人が突如インドを訪れ、当初から計画してあった都市開発によって苦もなく四大文明の一つを興してしまったということだけだ。同様なことは多数の巨石建造物を建設し壮大なピラミッドを築いたエジプト文明そして古代中国文明についてもいえる。エジプトのピラミッドに関して言えば、逆に技術が衰退していることがわかる。四大文明はある時期を境として急激に技術を発達させ、その後の歴史時代に繋がる高度な文明を開化させている。
そしてそれ以前の歴史形態については多くが闇に包まれている。ある人は次のように主張する。四大文明成立以前にその全ての源流となる古代文明が存在した。しかし、高度な文明はなんらかの原因によって断絶し、それまで築き上げた文明を失った人々は世界中に散った。すべてはやり直し――彼らは新たな文明を最初から起こさざる得なかった。しかし、たとえ遺跡や遺物は失われても、身体で覚えた知識や技術、そして文明を築くノウハウはそう簡単に風化するものではない。彼らは先祖の知恵を受け継ぎ、再び高度な文明を起こした。それは漸進的な発達ではなく急激な開化であった――
では、文明を断絶させた原因とは具体的に何だったのか?考えられるのは巨大な天災――それまで人類が築いた文明をあとかたもなく洗い流してしまうほどの未曾有の天変地異である。それほどの天災なら有史の人類の古記録にも何らかの記述が存在するはずだ。人類が文字として歴史を記した最古の粘土版はシュメールに存在する。有名なギルガメシュ叙事詩のネタ元“ジウスドラ王の洪水物語”である。同様な物語は古来よりヘブライ人の間で“ノアの大洪水”として語り継がれている。さらに世界中あらゆる民族は少なからず大洪水の伝承を持っている。超古代文明を滅ぼした天災とはまさしく“地球規模の大洪水”だったのだ。
◆ICAの石の謎
1966年、南米ペルーのアンデス地方を数十年ぶりの大豪雨が襲った際、平年ほとんど干上がっているイカ川が氾濫し、突如の大奔流がオクカヘ砂漠の砂を海へと押し流した。それとともに、剥き出しとなった深い地層から奇妙な文様が彫りこまれた大小様々な石が発掘された。その後、砂漠の地下やペルーの古代遺跡の中から同様な石が続々と発見された。ICA(イカ)の石と名付けられたその石は現在発見されただけでも総計1万個以上に及ぶ。奇妙なことに石の文様の特徴はマヤや、インカ、アステカといったインディオが築いた古代アメリカ文明とはまったく共通点がない異質なものであった。
それなら、ICAの石はいまだ知られざる未知の文明の遺物なのかといえば、ことはそう単純ではない。なぜなら、そこに刻まれた絵には、南米で生息するはずのない動植物――しかも人類が誕生するはるか以前に栄えていた古代生物が含まれていたからだ。1966年、カブレラ博士はボランティアで治療をしてあげた農民から小さな石を贈られた。それが博士が手にした最初のICAの石だった。ある日、石に彫りこまれた奇妙な動物の正体が気になった博士は、さまざまな資料と照合してその正体を探ってみた。謎の絵と寸分違わず似ている動物が見つかったとき、博士は困惑した。
それは一億4000年以上前に生息していた翼竜の復元図だっただったからである。その後、石の魅力にとりつかれたカブレラ博士は診療室を私設博物館に改造し、ICAの石の大々的な収集を始めた。現在まで集まった石の数はすでに一万一千個に達しているという。にわかには信じ難いことではあるが、これらICAの石の中には、翼竜に限らず人類が登場するはるか以前に絶滅したはずの数多くの恐竜の絵が施されていた。明らかにステゴサウルスと思われる動物、ティラノサウルス、ブロントサウルス、ランベオサウルス、そしてトリケラトプスなど、恐竜を描いた石が続々と発掘されたのだ。
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| ステゴサウルスの刻まれたICAの石 |
恐竜だけではない。3億年前に生息した古代魚アグナトスを描いた石や、5本の蹄を持つ馬やラマ、ナマケモノの祖先のメガテリウム、頭と首はキリンで体はラクダのようなアルティカメルス、巨大な鹿のようなメガセロス、マンモス、巨大な肉食走禽ディアトリマスなどの絶滅哺乳類が描かれた石も確認されている。さらに驚愕すべきことは、人類と恐竜が同時に出てくる――すなわち、人類と恐竜が共存していたことを示すICAの石が多数発見されているということだ。ある石には腰帯を巻いた二人の人間が望遠鏡のようなものでステゴサウルスの成長過程を観察している絵が彫りこまれている。
また別の石には人類が恐竜の上に乗り、手に持った鋭い武器で恐竜の腰付近を突き刺している姿が見える。しかも、最近の研究によって、武器は恐竜の運動をコントロールする“第2の脳”のある場所に正確に突き刺されていることがわかった。さらにある石にはティラノサウルスと思われる巨大な肉食恐竜が人間の頭に食いついている様子が描かれている!定説によれば、ティラノサウルス・レックスは約6500万年前に絶滅したはずだ。一方のホモサピエンスが登場したのはたかだか数百万年前の出来事である。両者が同時期に出会うことは絶対にあり得ない。
あり得るとすれば可能性は二つ、超古代文明が存在した大洪水以前の世界に恐竜の生き残りが生息し、同じ大地の上で人類と共存していたという事実を認めるか、あるいはICAの石を後世の人間が作った偽造品であるとし、古代の遺物であることそのものを否定するかだ。多くの良識ある人々は後者を選ぶであろう。事実、イギリスBBC放送がICAの石の一部を持ち帰り調べた結果、古代の遺物にしては切り口がシャープで磨耗の跡が少ないこと、さらには調査中にパジリオなる職人がICAの石はすべて自分が偽造しカブレラ博士に売り付けたと名乗り出たことから、ICAの石は現代の偽造品であると断定している。
まず言えることは、全てのICAの石が本物である可能性は限りなくゼロであるということだ。石の中には現代の4輪自動車を模したような明らかに悪質なものも見つかっている。事実、ペルーにはワッケーロと呼ばれる考古学的遺物の盗掘者が存在し、出土品を好事家に売り飛ばすことで生計の足しにしている。現在でも無数の貴重な遺物が研究者の目に触れることなく、外国人や裕福なペルー人に売りさばかれている。食うや食わずの生活をしている彼らにとって、古代遺物の人類にもたらす考古学的・学術的価値などどうでもよいことなのだ。
また、貧しいインディオ農民が自らの生活の糧とするために偽造品を作り上げ、古代の遺物と偽って、何も知らない観光客にまがいものを売りつけることもしばしばある。ICAの石もまたそうした偽造品の一つに過ぎないと言えばそれまでだ。しかし、逆に言えば偽物が存在することは本物のICAの石が存在する可能性を否定するものではない。古代遺物の偽物を売り飛ばすには、当然ながら相手方がそれを本物の遺物である信じるようなものでなければならない。恐竜と人類が共存していることを示す古代遺物など誰が好き好んで作るだろうか?しかも1万個以上。
勘違いしている人が多いが、ICAの石を発掘しているのはなにも貧しい農民だけではない。それにICAの石を収集しているのはカブレラ博士だけではない。1966年12月11日、リマの日刊紙『ディアリオ・エル・コメルシオ』に「オクカヘ砂漠の謎の石」と題する記事が掲載された。記事を書いたのは、ペルー工科大学学長だったサンチアゴ・アウグスト・カルボとペルー国立考古学研究所のアレハンドロ・ペシアの二人。彼らはプレインカ時代の墓から副葬品として納められた同種の石を発見したという。このことはインカ人がICAの石の存在を知っていて、何らかの宗教的・儀式的な目的に使用していたことを示唆している。
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| 輝く太陽から放射された光線がピラミッド状の建造物に降り立ち、 そのエネルギー(?)が人類に還元される様子が矢印として描かれている! |
記事によれば、石が発見されたのはオクカヘ砂漠南部の歴史的遺物保護地域(マックス・トゥーレの丘)で、石には“未知の種類の”鳥と植物と星の絵が刻まれていた。特に星の絵はプレインカの絵画には見られない独特のモチーフであった。謎の石は考古学者ペシア・アセレタによって「先コロンブス文明の魔法の石」と名付けられ、イカ考古学博物館目録に正式に登録されている。ICAの石に関する最初の記事が載せられてまもなく、考古学者アルトゥーロ・カルボがマックス・トゥーレの丘でさらに100個ほどの同種の石を発見した。カルボは石の分析をペルー工科大学工業研究所に依頼しているが、その結果は驚くべきものだった。
同研究所に在籍するフェルナンド・デ・ラス・カサス博士とセサル・ソティーヨ博士が責任者となって作成された鑑定書によれば、石表面と線刻部分を覆っている酸化層を分析した結果、絵が刻まれたのは一万二千年以上前であることが判明したとある。これは科学者が示した正式な鑑定結果である。鑑定書のオリジナルは、ペルー工科大学へ行けばいつでも閲覧することができる。先述したカブレラ博士も、1967年6月、マウリシオ・ホッホシルト鉱業会社に石の分析を依頼している。同社副社長のルイス・ホッホシルトが自ら責任者となり、地質学者エリック・ウルフ博士に分析を依頼した結果、鑑定結果はにわかには信じ難いものとなった。
ウルフ博士自身、分析が間違っているのではないかと疑い、ICAの石数点をボン大学鉱物学・岩石学研究所のヨーゼフ・フレッヒェン教授に送った。その鑑定結果はウルフ博士のそれを全面的に裏付けるもので、線刻表面を覆っている酸化層を分析した結果、絵が刻まれたのは少なくとも1万2000年以上前のものと思われるというものだった。貧しい農民が売りつけたICAの石には確かに多くの偽造品が存在する可能性がある。カブレラ博士自身、1972年にICAの石の存在が大々的に報じられて以降、多くの人がこぞって偽物を作り始めたと主張する。
しかし、正式な考古学者が発掘した石やきわめて古い鑑定結果がでた石を、一部の偽造品によって完全否定してよいものだろうか?ICAの石の素材は安山岩であるが、ペルー地方の安山岩は中生代に成立したと考えられており、奇妙にも石に描かれた多くの古代生物が生息していた年代と一致する。当時40歳の無学なインディオ農民がそこまで計算して偽造品を作ったとは考え難い。パジリオは警察に尋問を受けているが、その調書の中で彼は1万5千個の石をたった一人で作ったと供述している。面白いことに、うっかり“石を取ってきた”と口を滑らせ、取り調べ官に“取って来たのか自分で彫ったのかどっちだ”と突っ込まれている。
カブレラ博士に石を売りつけたパジリオとしても、出土品を私人に売ったと公の場で認めるわけにはいかない。ペルーでは出土品の国外持ち出しや違法売買が、麻薬取引と同程度の厳しさで取り締まられており、現在では罰金刑と禁固刑が科せられているからだ。ゆえに、貧しい農民は必ず出土品を自らの偽造品であると主張する。取り締まる警察側としても、農民を処罰するためには、まずICAの石が本物の出土品だと証明しなければならない。ICAの石は考古学界で正式に承認されていない遺物である以上、パジリオが偽造品だと主張すれば、警察としてもそれ以上介入する動機はなく、余計な手間が省け両者とも丸く収まるというわけだ。
それでもICAの石を本物の古代遺物であると認めるにはいくつかの問題点がある。鑑定結果はきわめて古い年代が算出されにも拘らず、ICAの石に磨耗の跡が少ないのはなぜなのか?一つの可能性としては、ICAの石は多くの古代遺跡や遺物のように、膨大な年月の流れのなかで自然に地面に埋もれていったのではなく、なんらかの原因――特に大規模な洪水などの天変地異によって一挙に押し流され地下深く隠されてしまったのではいかという推測が挙げられる。石に絵が彫られてそれほど年月が経たないうちに、土砂に埋もれ現代まで保存されてきたのだとすれば、磨耗のあとが少ないのは不思議なことではない。
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| ポンプのようなものにつながれ、メスのような器具が刺さった心臓が見える。 これは手術の様子を描いたものなのか、あるいは野蛮な生贄の儀式を描いたものなのか… |
ICAの石の中には鳥の形をした飛行機械に乗り恐竜を狩っている様子や、望遠鏡と思われるもので天体を観察している様子、人間の体を原始的な医療器具によって切開し手術を施している絵も刻まれている。このような高度な文明が古代アメリカに存在したのだとすれば、なぜインカ文明やマヤ文明に知識や技術が伝わらなかったのだろうか?そこには人の繋がりと情報の伝播を断つ何らかの原因――具体的に文明を断絶させた巨大なカタストロフィ(大天変地異)が介在した可能性が高い。ICAの石は比較的短期間のうちに膨大な土石流と大洪水によって地下深く埋もれてしまった。
ICAの石の作製者たちもこのときの天災により滅びてしまい、その叡智は朽ちることのない石の文様だけを残して歴史の闇に埋もれてしまったのだ。むろん、その天災とは史上最大のカタストロフィ――ノアの大洪水である。オリエント世界に限らず、こうした大洪水神話は南北アメリカ大陸全域に存在する。たとえば、ホピ族はかつて大陸を水没させた大洪水が起こったとき、自分たちの始祖を除いてすべてが滅び、その後新たな世界が始まったと伝えている。中南米アステカでも勇者コフコフが巨大な糸杉の筏に乗って大洪水を生き残り、その後ルワカン山に漂着したと伝えている。
さらにギリシャ神話ではデューカリオンが巨大な船を建造し、ゼウスが起こした未曾有の大洪水を家族とすべての動物とともに乗りきったあとパルナッソス山に漂着したとあり、古代インドのブラーフマナ散文の中にも始祖マヌが七人の天神とともに巨船に乗り込み、地を覆う大洪水を生き延びたすえヒマヴェット山に漂着した次第が記されている。同様な洪水神話は北欧や、中国、アフリカでも採集されている。世界中あらゆる民族に共通する大洪水神話は、ノアの大洪水が史実であったことを示す証左であり、過去に存在した超古代文明が恐竜を含む多くの古代生物とともに洗い流されてしまったことを暗示している。