2000/10/16

タロット・カードの神秘

 


 はるか昔から広く普及し、最もよく知られた占術の一つにタロット占いがある。タロット・カードは現代でも占いの道具として、人の運勢や未来の出来事を予測することを目的にしばしば使用されている。タロットの起源には諸説あり、はっきりしたことは分かっていない。最古のタロットとして確認されているカードは1370年代に制作されたものだが、タロット・カードの直接的な起源はそれ以上に遡ると考えられている。一般に、タロット・カードというと、西洋魔術を思い浮かべてしまうが、本来のタロットは東洋を起源とする。

 古来よりインドや中国ではカードが使用されており、これらがタロットの原形になったと推測されている。その後、ジプシーの占い師やムーア人の侵略によって、東洋のカードはヨーロッパに伝わったという。しかし、タロット・カードが現在見られる形(大アルカナ22枚、小アルカナ56枚)になったのはいつ頃なのか、どこで制作されたのか、誰が図柄を定めたのかとなると、歴史の闇に包まれてはっきりしたことは言えない。一説にはエルサレムに住んでいたユダヤ教神秘主義者が大成したともされる。

 実際、禁欲的な軍事教団であったテンプル騎士団が、十字軍の遠征の際、エルサレムからタロット・カードを持ち帰ったという言い伝えもある。タロットには、西洋占星術、数秘学、錬金術、カバラ、神話学、ヘルメス主義、エジプト密儀、東洋哲学、キリスト教神秘主義などなど……ありとあらゆる神秘思想の要素が含まれている。タロット・カードを考案した人物(または集団)もそうした古代密儀に通暁した神秘思想家たちだったに違いない。タロットは中世のヨーロッパに持ち込まれると、急速に庶民の間に浸透した。

 特に当時の貴族たちは好んでタロットを用いるようになり、それぞれ意匠をこらしたカードを作成した。その一方で、異教的な要素が濃いタロット・カードは、ヨーロッパに広く浸透するにつれてカトリック教会からの弾圧を受けるようになった。タロット・カードは聖書で禁じられた占いの道具であり、それを使用することは悪魔的な所業であるというのだ。確かに、タロットに異端的な要素が含まれていたことは否定できない。しかし実際のところ、キリスト教的な観念世界を越えた、神秘の力にあふれているために敬遠されたというのが本当らしい。

◆ユングとタロット

 現在のタロット・カードは、一組78枚のカードから成り立っており、その中身も、22枚の大アルカナと、56枚の小アルカナに大別される。22枚の大アルカナには“隠者”“愚者”“皇帝”“法王”などの個性あふれる人物の絵柄や、“運命の輪”“吊し人”“太陽”“審判”などの不可思議なシンボルが描かれており、タロット研究者によれば、これらキーワードを繋ぎ合わせることでタロットは人間のさまざまな側面を照らし出すとことができるのだという。つまり、漠然とした無意識の断片が、元型のイメージとしてのタロットによって具現化され、その人固有の無意識の形を喚起させるのだという。

 夢判断で有名な心理学者ユングもまた、タロットの不思議な力に魅せられた一人である。彼は夢の研究をするうちに、夢の中に登場する非合理的なシンボルやイメージこそが、無意識の世界を解く鍵だと考えるようになった。先ほど言った「元型」とは彼の理論の一つであり、無意識の領域に存在し、また無意識に人を動かす全人類に共通する心理パターンのことである。ユングは同じようなパターンが自然界にもあるのではないかと考え、研究を進めるうち、タロットには夢よりもはるかに具体的でイメージしやすいキーワードが溢れていることに気づいた。

 ユングはタロットに出てくる絵柄を歴史、宗教、哲学などのあらゆる分野から検証し、タロットはその多様性によって人間の無意識の中にあるものを喚起させ、導き出されたキーワードを解釈することでその人だけに当てはまるパターンがあることを発見した。さらに晩年、ユングはタロットをはじめとするオカルトの研究を続け、ついには“シンクロニシティ(共時性)”という理論を確立。その考えによれば、無意識の領域にあるものと現実の世界に起こることには一種のアナロジーが存在し、人が偶然として片付ける出来事も、すべては無意識の中にある原因により必然的に起きているのだという。

 つまり、自分の無意識を知ることで、これから自分の身に起こることや、未来に起こる出来事を予測することができるということでもある。タロットは人間の普遍的無意識を発掘する道具であり、その手助けとなる。ユングの理論の真偽はともかく、人間の無意識を意識化する手段として、占い師が相談者の未来を予測する際に行うカード解釈は、現在の精神療法師が行う手法とも多分に共通点があることは確かである。占いの作業は、ある特定の質問を出して、それに対する助言を求める相談者と、答えを解き明かす占い師とで構成されている。

 それはまさしく、医師が患者に質問をぶつけ、その答えから医学的に解釈をし、患者の精神状態を推測しながらアドバイスを行う現代心理学の手法そのものなのだ。比較的簡単な占い方法には、22枚の大アルカナだけを用いる占うやり方があるが、もっと複雑な占い方になると、78枚のカードを残らず使用する方法もある。もっとも、ベテランの占い師でも小アルカナから解釈できる意味を思い出すために、しばしば解説書の力を借りるはめになるという。小アルカナは、杖と聖杯と剣とコインの4種類の組み札に分かれた、56枚のカードからなる。

 さらに4組のカードは、それぞれ10枚のカードと四つの副次的区分を表す“ページ”“ナイト”“クイーン”“キング”から構成されている。ちなみに、現在、ゲーム用として普及している53枚組のトランプ・カードの起源はここにある。実際、大アルカナ・カードには1〜21までの番号がついているが、“愚者”だけは番号がないので、このカードは今のトランプにあるジョーカーの原型なのではないかと推測されている。22枚の大アルカナ・カードは、それぞれ独特の図柄を持つ絵札から成るが、元型イメージの一般的な解釈を紹介すると以下のようになる。

1 魔術師 知識を探求する人物、求めている答え 12 吊し人 順応性、学習意欲、激しい変化と犠牲
2 女教皇 洞察力、霊感、潜在意識下の記憶、将来への配慮の欠乏 13 死神 改革による変化、再生
3 女帝 理解力に富んだ人物、女らしさ、官能性美と幸福 14 節制 中庸、慈悲、修正
4 皇帝 男らしさ、独立、創造性、実行力 15 悪魔 敵対者、警告
5 法王 助言、正義、治癒 16 塔 罰、高慢、神の啓示
6 恋人 二者択一、決断 17 星 新たな始まり、喜び、救済
7 戦車 達成、成功、敗北の危機 18 月 不確実性、変わりやすさ
8 正義 助言に従えとの警告、人間の運命を支配すること 19 太陽 光輝、健康、富、愛情、背信
9 隠者 時間、英知、引きこもること 20 審判 賞罰、最終的な達成
10 運命の輪 変化、慎重さ、果てしなく繰り返されること 21 世界 成就、物質面で満たされた状態
11 力 強い意志力、迫り来る危機 0 愚者 運命、巡り合わせ、終末

◆タロットと生命の樹

 タロット・カード成立の背景には神秘主義が絡んでいる。特に、中東で萌芽し西欧で隆盛を極めたユダヤ教神秘主義が根底にある可能性が高い。ユダヤ教神秘主義とは、生命の樹を根幹とし、神の叡智を求め、最終的には天界の神と見え、神に近づくことを目的とする深遠なる密儀、カバラ(カッバーラ)のことを指す。カバラにおいて最も重要な要素は旧約聖書を構成する22文字のヘブライ語アルファベットである。それは一種の言霊であり、カバリストたちは文字を組み合わせたり、ゲマトリアを駆使することで、旧約聖書の奥義を知ることができると信じていた。

 それはまた、カバラの叡智を凝縮し、その奥義を体系化した「生命の樹」と呼ばれる象徴図形において、10個のセフィロト(神的属性)の間を結び付ける22本の“パス(小径)”として表現されている。この象徴図形は古くは「神のかたち」と名付けられてきた。ゆえに、カバラを探求する者は22本の小径を研究し、その相互関係を把握する、そしてその小径を自由に行き来することで、はじめて神(生命の樹)の真の理解に達することができると信じられてきたのだ。大アルカナを構成する22枚の絵札が、このヘブライ語アルファベット22文字に由来していることは明らかである。

 大アルカナは、宇宙を創造した神の言霊であり、その10の力を結合させる小径なのだ。また、22という数字が11の倍数であることに注目すれば、大アルカナは生命の樹を織り成す11個のセフィロト(うち1個は隠されている)をも併せて意味していることになる。すなわち、22枚の大アルカナはそれ自体で、一つの生命の樹を構成しているのだ。では次に、大アルカナと対を成す小アルカナに隠された意味を同じくカバラで解いてみることにしよう。小アルカナは四つの組み札に分かれ、さらに各組札は四つの副次的区分と10枚のカードから成る。

 小アルカナにおいて、最も重要なキーワードはこの“4”という数字、あるいは一つの単位である。カバラの歴史において、“4”という数字は宇宙を創生した絶対神の四つの業を象徴していた。すなわち、流出(アツィラー)、創造(ベリアー)、形成(イェツィラー)、活動(アッシャー)の四つの位階(ヒエラルキー)である。それはまた、宇宙創世の際、神が四つの生命の樹を創ったことを表し、この宇宙が四つの階層に分かれていることを示唆している。とはいえ、四つの生命の樹は独立して存在するわけではない。

ヤコブの梯子。生命の樹が4つ重なっている。

 流出、創造、形成、活動は、そのまま人類の霊的な進化の過程であり、それぞれを一つの段階(位階)として、階段のように天に伸びている。カバリスト(カバラの探求者)が描いた図形の中には、四つの生命の樹が各々のケテルと他の樹のティファレトとを合わせることで一続きに繋がっているものがある。この場合、中央の均衡の柱には、全部で11個のセフィロトが並び、一つの生命の樹が持つセフィロトの数と一致する。これはすなわち、カヴ(雷の閃光)に沿ったジグザグの道ではなく、真っ直ぐに伸びる神の10の段階(ダアトは秘されたセフィロトである)を直接的に上へと昇ることを意味している。

 それはちょうど、人が立て掛けられた梯子に足をかけ、一歩一歩上へと上っていくようなものである。人はこれを“ヤコブの梯子”と呼ぶ。イスラエル人の父祖ヤコブは野宿した際、天界へと無限に伸びていく梯子を夢に見た。すると、彼は夢を見た。先端が天まで達する階段が地に向かって伸びており、しかも神の御使いたちがそれを上ったり下ったりしていた。(創28:12)ヤコブの梯子とは人間が天界へと上る、すなわち神へと近づく道程であり、生命の樹の象徴の一つである。神の御使いとは、神の霊の子たち(霊体天使)のことで、直接的には地上で生を受けた人間のことを指してる。

旧約聖書のエゼキエルは神の戦車メルカバーに見えた際、
そこに四つのガルガルがあるのを見た。
ガルガルとは車輪の意味があるが、ヘブル語で“円域”や“圏域”という意味もある。
四つの円域とは生命の木を構成する“四つの世界”を暗示している。

 人は皆、生命の樹を上昇しているが、ときに下降(堕落)してしまうこともある。我々は生命の樹を上ったり下ったりしているのである。ここで重要なことは、生命の樹が伸びていく際は、4位階が一つの単位となっているということだ。四つの生命の樹はそのまま神の四つの業、すなわち4位階を意味するが、同時に一つの生命の樹も固有の4位階を内包しており、“神のかたち”を具現化している。生命の樹とは無限であり、4を単位として自己相似的に拡大していく。人が生命の樹を完全に理解したつもりでも、それはより大きな生命の樹に含まれる一つの単位にしか過ぎないのである。

◆メルカバーと小アルカナの対応

 4位階を基盤とした神秘思想が最も早く結実したのはメルカバー神秘主義においてであった。メルカバーとは旧約聖書の中の一書「エゼキエル書」に出てくる神の戦車のこと。古来より、メルカバーにはユダヤ教の隠された知識と天界の神の奥義が凝縮されていると考えられてきた。詳しくは別項を参照願いたいが、メルカバーの奥義とは4位階を根幹とした生命の樹である。その複雑な構造を簡単に述べると、四つの顔を持ったケルビムが四人いて、その上に神の玉座があり、さらにその玉座の上には“人間のように見える姿をしたもの”が座す、というものだ。

 “人間のように見える姿をしたもの”とはずいぶん遠まわしな言い方だが、絶対神を人間と同等に扱わないための配慮であり、慎重に言葉を選んだ結果こうなったのだろう。もっとも、カバラの探求者は、玉座に座る人物を“神の反映”“神のかたち”と呼んでも、神そのものとは考えない。神の纏う光り輝く衣として捉えようとする者もいる。その名は“アダム・カドモン”である。創世記によると、神は自分の姿に似せて人(アダム)を創った。それは、最上界にあたるアツィルトに座す神人であり、神の姿の“完全な反映”であり“鏡像”であるとされたのだ。

 ちなみに、アダム・カドモンの座す玉座はベリアー、ケルビムの軍隊はイェツィラー、そして物質的な地上世界はアッシャーと対応している。これがメルカバーの4位階である。ただし、先ほど言ったように4は一つの単位であり、生命の樹は常にフラクタル構造を持っている。その意味で四人のケルビムもまた、4位階を表す四つの生命の樹を象徴している。黙示者ヨハネは第1の生き物は獅子、第2の生き物は雄牛、第3の生き物は人間、第四の生き物は鷲であると記している。(黙4:6−8参照)

 これはそのままタロット・カードの4つの組み札と対応している。具体的にコインは人間、剣は獅子、聖杯は雄牛、杖は鷲ということになる。コインとは古代において権威や支配の象徴であり、古代ローマ帝国のコインにはカエサルの顔が刻まれてあった。また、古代ヘブライのコインにはユダヤの真の支配者と考えられたヤハウェの図柄が施されていた。現在でもヨーロッパのコインの一部には皇帝や女王の横顔が刻印されている。創世記の時代、人間は神からすべての動物を治める権限を与えられており、ゆえに動物界のヒエラルキーにおいて、コインは人間の象徴となるのである。

 つぎに剣だが、これは直接的な武力や戦力を表している。古来より、獅子は力強き者や戦いの勇者の象徴であり、多くの戦功を挙げ、武勇をはせた勇者ダビデはユダ族の獅子と呼ばれていた。剣は四つの動物の中の獅子と対応していると考えるのが妥当である。残る二つの組み札も象徴的な意味を読み解けば、何を表しているのかが理解できる。聖杯とはキリストの血を受けたとされる神具のことだが、最後の晩餐においてキリストを過ぎ越しの子羊と見立て、葡萄酒をキリストの血として暗示したように、それは人類の贖いを意味している。

 また、杯に葡萄酒を注ぐことは古来生殖の象徴となっており、花嫁である全人類とキリストとの契り(新たな契約)をも象徴している。ユダヤ教の慣習では、雄牛は人類の罪を背負わせ犠牲として供する家畜であるため、人類の贖いを表す聖杯は雄牛と対応していることが分かる。最後に杖だが、老賢者が必ず杖を持つように、杖は預言者や祭司の象徴、さらには生命の樹そのものの象徴となっている(ユダヤ教神秘主義カッバーラ後編を参照)。一方の鷲は天地を行き来する存在としての象徴、つまり神と人を繋ぐメッセンジャーとしての意味を有している。

 ここで一度まとめておくと、次ぎのようになる。人間のように見える姿をしたもの=アツィルト=人間=コイン、神の玉座=ベリアー=獅子=剣、ケルビムの軍隊=イェツィラー=雄牛=聖杯、エゼキエルのいた地上世界=アッシャー=鷲=杖。さて、四人のケルビムが4段階の生命の樹(4位階)を表すとして、さらに、エゼキエル書に出てくるケルビムには各々四つの顔がある。それは同じく、人間、獅子、雄牛、鷲である。当然、これも4位階を表している。一つの生命の樹にも4位階が内包されているからだ。

 タロット・カードにおいては、四つの組み札のそれぞれに4位階を表す四つの副次的区分が組み込まれている。それがキング、クイーン、ナイト、ページである。これは4位階を象徴する動物界のヒエラルキーを貴族階級として置き換えたもので、メルカバーにおいてはケルビムが持つ四つの顔と対応している。さらに各組み札に含まれる1〜10までの数字カードは、生命の樹を構成する10個セフィロト(神的属性)と対応している。ちなみに、メルカバーにおいては、各ケルビムの持つ四つの翼と、四方に伸びた四つの腕、そして青銅色に輝く二つの足。

 すなわち、合計10の器官として表現されている。こうして見ると、タロット・カードの成立過程にメルカバー神秘主義が反映していることは明白だろう。タロット・カードを考案したのが何者か、非常に気になるところだが、有能なカバリストであることは間違いない。むろん、タロットは無意味な占いの道具などではなく、神秘思想家たちがメルカバーを探求するに際し、インスピレーションを高める目的で利用した特別な道具である可能性が高く、小アルカナと対をなす大アルカナ(ヘブライ語22文字、生命の樹の小径)もそのために使用したと考えるのが妥当である。

 



[PR]話題の新車を無料プレゼント中:必ず当る抽選会!今すぐ応募で簡単GET